ピエール・クラストルとポール・オースターの「出会い」
ピエール・クラストルの『グアヤキ年代記』に感銘をうけ、英語に翻訳して序文まで書いたのが、若き日のポール・オースターでした。
「この本を好きにならないのはほとんど不可能だと思う。じっくり丹念に練られた文章、鋭利な観察眼、ユーモア、強靱な知性、対象に注がれた共感、それらすべてがたがいに補強しあって、重要な、記憶に残る書物を作り上げている……細部に向ける目は正確で周到であり、さまざまな思考を一貫した大胆な陳述にまとめる能力はしばしば息を呑むほどだ。彼はめったにいない、一人称で語ることを恐れぬ学者である。その結果生まれてくるのは、研究対象となっている人々の肖像にとどまらず、彼自身の肖像である」。
『トゥルー・ストーリーズ』所収のエッセイ「訳者から」より
(柴田元幸訳、新潮文庫、298-307頁)
英訳書:Pierre Clastres, Chronicle of the Guayaki Indians, New York: Zone Books, 1998. (translation and translator's note by Paul Auster)
オースターによる翻訳は出版社の倒産などがあって出版されず、しかもその翻訳原稿は行方不明になります。しかし20年後に「ささやかな奇蹟」がおこりました。行方不明だった翻訳原稿が発見され、オースターの手にわたった感動的な経緯が、このエッセイに綴られています。
日本語訳の『トゥルー・ストーリーズ』は、ひょっとしたら新刊本の在庫がないかもしれません(2021年4月8日時点)。もしそうなら、古書でお求めになってご覧くださいませ。
わたしは、オースターの小説の、あまり良い読者ではありませんでした。
けれども彼が、ピエール・クラストルの著作について、「その何の気取りもない直截さ、人間らしさに私は打たれた。……自分がこれからずっと追いつづけるにちがいない書き手に出会ったことを確信した」と記しているのを知って、彼の小説を違った角度から読みなおしてみようとおもいたちました。こういうひとだったのか、と。
『グアヤキ年代記』の日本語訳は、毬藻充氏によるすぐれた翻訳で、2007年に現代企画室から刊行されています。
「パラグアイのグアヤキ先住民と生活を共にし、その社会をつぶさに記録した文化人類学の大著。やがて〈国家に抗する社会〉論へと飛躍するクラストルの第一作」
追 記
ピエール・クラストル著、ミゲル・アバンスール序文
『反神話』
いまこの本の編集中です。
翻訳者による、たくさんの訳注と、かなりの長さの解説文とが付きます。
刊行日の目途が立ちましたら、書誌情報の詳細を紹介させていただきます。