『密やかな教育 ――〈やおい・ボーイズラブ〉前史』
石田美紀 [著]
- 発 行 洛北出版
- 仕 様 四六判・上製・366頁
- 2008年11月刊行
- ISBN 9784903127088
- 定 価(本体価格 2,600円+税)
「やおい・ボーイズラブ」というジャンルも、その愛好者を指す「腐女子」という分類もなかった70年代……
少女マンガと小説の場に出現した「女性がつくり楽しむ男性同士の性愛物語」は、旧い教養(三島由紀夫、ヘッセ、稲垣足穂、ヴィスコンティ…)をどん欲に取り入れ、エンターテインメント教養ともいうべき独自の体系へと成長していった。
本書は、この性愛表現が誕生し、80年代に充足してゆくまでの軌跡に光をあてる。
「女こども」とみなされていた女性の創作者たちは、なにを糧とし、いかなる葛藤に直面し、どのように次世代へとリレーしていったのだろうか。
インタビュー執筆者
竹宮惠子
(マンガ家、代表作『風と木の詩』『地球へ』『イズァローン伝説』等)
増山法恵
(小説家、「24年組」の拠点であった「大泉サロン」の発起人)
佐川俊彦
(京都精華大学マンガ学部准教授、雑誌『JUNE』元編集長)
目 次
第1章革命が頓挫したあとの「少女マンガ革命」
- マンガという新たな〈教養〉
- 「少女マンガ」という驚き
- モノローグが露(あらわ)にする内面――竹宮惠子「サンルームにて(雪と星と天使と)」(1970年)
- 内的ヴィジョンの横溢(おういつ)
- 「少年愛」のために選ばれた表現スタイル
- 少女マンガ、ヘルマン・ヘッセと出会う
- 少年たちの世界――『車輪の下』、『デミアン』、『知と愛』
- マンガと〈文学〉の軋轢(あつれき)――内面描写を巡って
- 目標としての「文学」
- ヘッセの内面描写――具象的で可変的なイメージ
- ヘッセから離れて――「エロティシズム」と「美」
- それを「少年愛」と名づけたこと――「少年を愛すること」なのか、それとも「少年が愛すること」なのか
- 稲垣足穂『少年愛の美学』――少女マンガにおける「少年愛」の起源
- からっぽにされた「少年を愛する主体」
- 「少年が愛する様」を愛すること
第2章ヨーロッパ、男性身体、戦後
- 憧れの土地
- 三島由紀夫という背中あわせの隣人
- ふたつのヨーロッパ経験
- 肉体の発見――三島由紀夫のヨーロッパ体験(1952年)
- 男性身体の露出――少女マンガ革命以前
- 男の体で政治を語る――『血と薔薇』(1968‐69年)
- 官能のヨーロッパ――異議申し立ての足場として
- 男の肉体の失墜――1970年、『地獄に堕ちた勇者ども』と三島の死
- 少女マンガとヨーロッパ
- ディテールの追求
- 空間の厚みを知ること――1972年のヨーロッパ旅行
- リアリティと夢想のアマルガム
- 政治から美へ
第3章〈文学〉の場所で ――
栗本薫/中島梓の自己形成
- 「栗本薫」というペンネーム
- 「ぼく」という一人称――評論と実作の架橋(かきょう)
- 作者と主人公の一致とズレ――『ぼくらの時代』(1978年)
- 求められる「私」への抵抗
- 「エンターテインメント」を味方にして
- 「私小説」的ミステリ小説――「ぼくらのシリーズ」
- 理想の「私」をつくるための習作――「今西良シリーズ」
- 作家としての私
第4章「耽美」という新しい〈教養〉の効能 ――
雑誌『JUNE』という場
- 1978年、『Comic JUN』創刊
- 「耽美」というコンセプト
- 70年代サブカルチャーの総花としての「耽美」
- 少女たちへの教育装置としての「耽美」――「ジュスティーヌ・セリエ」作品
- 80年代、次世代創作者の育成(その1)――「ケーコタンのお絵描き教室」
- 80年代、次世代創作者の育成(その2)――「中島梓の小説道場」
- 『JUNE』発「耽美」小説と映画批評――石原郁子の仕事
おわらないおわりに1┃ 竹宮惠子 インタヴュー耽美は溺れるものではなく、するもの
- 名づけられないもの
- ヨーロッパを舞台に選んだ理由
- 『風と木の詩』のディテールとヨーロッパ経験
- 援護射撃としての『JUNE』
- 中島梓との共同作業――「ジュスティーヌ・セリエ」作品
- 「耽美」は溺れるものではなく、するもの
- ゲームではなく――BLとの違い
- 後進の指導
2┃ 増山法恵 インタヴュー少女マンガにおける「少年愛」の仕掛け人
- 「七〇年安保闘争」と「少女マンガ革命」
- 「感想はマンガで」
- 編集部との闘い――既成の少女マンガへの挑戦
- 少年を描くこと
- 質をあげるために――1972年のヨーロッパ旅行
- 1976年、『風と木の詩』
- 黒子に徹する――「変奏曲シリーズ」における共同作業
- 『JUNE』について
- 「少女革命」が成し遂げたもの
3┃ 佐川俊彦 インタヴュー文学と娯楽の間を行ったり、来たり
- 「二四年組」が発端
- 「耽美」というキーワード
- 「心の不良」である『JUNE』の読者
- 新しいジャンル、新しい表現の立ち上げ
- バトンタッチできるものとできないもの
作品・文献索引
人名索引
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著者紹介
石田美紀(いしだ・みのり)
1972年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了、京都大学博士(人間・環境学)。現在、新潟大学人文学部准教授。専門は映像文化論。
著書として、『入門・現代ハリウッド映画講義』(共著、人文書院、2008年)、『カラヴァッジョ鑑』(共著、人文書院、2001年)ほか。
論文として、「メタ映像としての幽霊表象――中田秀夫監督『女優霊』」『アート・リサーチ』(6号、2006年)、「日本におけるルキーノ・ヴィスコンティ作品受容の独自性とその文化的影響」、『映像学』(75号、2005年)、「ファシスト政権期イタリア映画における「白」の視覚――「白い電話」と白い砂漠」、『美学』(56巻2号、2005年)、「響きと吐息――〈声のBL〉という申し開きのできない快楽について」、『ユリイカ』(12月臨時増刊号、2007年、青土社)、「「ヒューマニズム」と「センチメンタリズム」のすぐそばで――『A.I.』と『アミスタッド』」『ユリイカ』(7月号、2008年、青土社)ほか。
インタヴュー執筆者紹介
竹宮惠子(たけみや・けいこ)
1950年生まれ。マンガ家、京都精華大学マンガ学部教授。「二四年組」の中心的存在であり、少女マンガに革新をもたらした。1968年「りんごの罪」(『週刊マーガレット』正月号増刊)でデビュー。1970年に発表した「雪と星と天使と…」(のちに「サンルームにて」と改題)で、少女マンガにおいて初めて「少年愛」を描いた。代表作に『風と木の詩』(1976‐84年)、『地球へ…』(1977‐80年)、『イズァローン伝説』(1982‐87年)、『天馬の血族』(1991‐2000年)がある。『地球へ…』にて、第9回星雲賞コミック部門賞受賞、『風と木の詩』と『地球へ…』にて、第25回小学館漫画賞受賞。
増山法恵(ますやま・のりえ)
1950年生まれ、小説家・音楽評論家。「二四年組」の拠点であった「大泉サロン」の主催者。竹宮惠子と長く共同制作を行った。マンガ作品の原作には竹宮惠子「変奏曲シリーズ」(1974‐85年)、小説作品には、のりす・はーぜ名義で『風と木の詩』の後日譚『神の小羊――アニュス・デイ』(1990‐94年まで『JUNE』にて連載、単行本は光風社出版から刊行)、『永遠の少年――英国パブリックスクール・ミステリー』(角川ルビー文庫、1994年)などがある。
佐川俊彦(さがわ・としひこ)
1954年生まれ。京都精華大学マンガ学部准教授。『JUNE』を企画し、ながらく編集長を務めた。現在は、『月刊COMICリュウ』の編集に携わる。
本書カバーの装画
近藤聡乃(こんどう・あきの)
「あふれる花園 vol.2」
Overflowing Flowers vol.2
2004. 11. 7 700×700mm
pencil and acrylic on gesso, mounted on canvas
装幀・本文組版
洛北出版編集による。
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