『何も共有していない者たちの共同体』
アルフォンソ・リンギス[著]
野谷啓二[訳]
堀田義太郎・田崎英明[解説]
- 仕 様 四六判 上製 284頁
- 刊行日 2006年2月10日
- 発 行 洛北出版
- ISBN 9784903127026
- 定 価(本体価格 2,600円+税)
すべての「クズ共」のために――
どこから来たかではない
なにができるかでもない
私たちと何も共有するもののない――人種的つながりも、言語も、宗教も、経済的な利害関係もない――人びとの死が、私たちと関係しているのではないか?
何かが一人の官能の共犯者から別の共犯者へと伝わる。
何かが理解されたのである。
共犯者の間で使われるパスワードが認識されたのだ。
あなたを同じ仲間の一人の共犯者に仕立てる何かが語られたのだ。
ケツァール鳥、野蛮人、原住民、ゲリラ、遊牧民、モンゴル人、アステカ人、スフィンクスの。
目 次
- もう一つ別の共同体
- 侵入者
- 顔、偶像、フェティッシュ
- 世界のざわめき
- 対面する根源的なもの
- 腐肉の身体・腐肉の発話
- 死の共同体
原 註
解説1[田崎英明]
解説2[堀田義太郎]
訳者あとがき[野谷啓二]
原 著
Alphonso Lingis, The Community of Those Who Have Nothing in Common, Indiana University Press, 1994
著 者
アルフォンソ・リンギス(1933-)Alphonso Lingis
哲学者。リトアニア系移民の農民の子どもとしてアメリカで生まれる。ベルギーのルーヴァン大学で哲学の博士号を取得。ピッツバークのドゥケーン大学で教鞭をとった後、現在はペンシルヴァニア州立大学の哲学教授。世界のさまざまな土地で暮らしながら、鮮烈な情景描写と哲学的思索とが絡みあった著作を発表しつづけている。メルロ=ポンティ『見えるものと見えないもの』、レヴィナス『全体性と無限』、クロソフスキー『わが隣人サド』の英訳者でもある。本書以外の著作に、『汝の敵を愛せ』(洛北出版)、『異邦の身体』(河出書房新社)、『信頼』(青土社)、『変形する身体』(水声社)などがある。
訳 者
野谷啓二(のたに・けいじ) NOTANI Keiji
1956 年生。上智大学大学院文学研究科前期課程修了。博士(文学)。現在,神戸大学国際文化学部教授。専門は英文学,宗教文化論,多文化共生論。著書に,『J.H.ニューマンの現代性を探る』(共著,南窓社,2005年),『ポッサムに贈る13のトリビュート――T.S.エリオット論集』(共編著,英潮社,2004年)などがある。訳書にノーマン・タナー『教会会議の歴史――ニカイア会議から第2バチカン公会議まで』(教文館,2003年),ノーマン・サイクス『イングランド文化と宗教伝統』(開文社,2000年)など。
解説者紹介
堀田義太郎(ほった・よしたろう) HOTTA Yoshitaro
1974年生。大阪大学大学院医学系研究科博士課程。倫理学,生命・医療倫理,障害学。論文に,「生命をめぐる政治と生命倫理学――出生前診断と選択的中絶を手がかりに」(『医療・生命と倫理・社会』第2号,2003年),「障害の政治経済学が提起する問題」(『医学哲学医学倫理』第22号,2004年),「国民国家の没落と政治の再開」(『情況』第3期第5巻第9号,2004年10月号),「遺伝子介入とインクルージョンの問い」(『障害学研究 1』,2005年)など。
田崎英明(たざき・ひであき) TAZAKI Hideaki
1960年生。専門はセクシュアリティと「政治的なるもの」の理論。
著書に『ジェンダー/セクシュアリティ』(岩波書店,2000年),『売る身体/買う身体:セックスワーク論の射程』(編著,青弓社,1997年),『歴史とは何か』(共著,河出書房新社,1998年)などがある。論文に「無能な者たちの共同体」(『未来』,未來社)など。
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※ 本書の冒頭 11-13頁からの引用
共同体とは普通、何かを、たとえば言語やものの見方や考え方を、共有している人びとが形づくっているものだと考えられている。また、一つの民族、都市、制度といったものを共に作っている集団によって形づくられると思われている。けれども私は、すべてを残して去っていく者、すなわち、死にゆく人びとのことを考え始めた。死は一人ひとりの人間に一つひとつ別のかたちで訪れる、人は孤独のなかで死んでいく、とハイデガーは言った。しかし、私は病院で、生きている人が死にゆく人の傍に付き添うことの必然性について、何時間も考えさせられた。この必然性は、医師や看護師、つまり、できることをすべて行なうためにそこに居る人びとだけのものではない。死にゆく人に最後まで付き添おうとする人、打つ手が何もなくなったのに居つづける人、自分がそこに居つづけないわけにはいかないと切実に感じている人にとっての必然性でもある。それは、この世で最も辛いことではあるが、人はそうすべきだとわかっている。死にゆく人が人生を一緒に生きてきた親や恋人だから、という理由だけではない。人は、隣のベッドで、あるいは隣の病室で、まったく知らない人が孤独に死につつあるときにも、そこに居つづけようとするのだ。
これはたんに、一人ひとりの人間のモラルを問う決定的瞬間という意味しかないのだろうか? 私は、病院であれ貧民街であれ、孤独に死にゆく人を見捨てるような社会は、みずからその土台を根こそぎにしているのだと考えるようになった。
私たちと何も共有するもののない――人種的つながりも、言語も、宗教も、経済的な利害関係もない――人びとの死が、私たちと関係している。この確信が、今日、多くの人びとのなかに、ますます明らかなかたちで広がりつつあるのではないだろうか?
私たちはおぼろげながら感じているのだ。私たちの世代は、つきつめれば、カンボジアやソマリアの人びと、そして私たち自身の都市の路上で生活する、社会から追放された人びとを見捨てることによって、今まさに審判を受けているのだ、と。
こうした考察から私が理解したのは、他者のなかにあって私たちに関係するものとは、まさに彼または彼女の他者性――私たちと対面するときに、私たちに訴えかけ、私たちに異議を申し立ててくるもの――にほかならない、ということである。「侵入者」は、この他者性の輪郭を描こうとするエッセイである。「顔、偶像、フェティッシュ」では、真の価値はなぜ、私たちが共有しているものではなくて、個々人を個別化し、彼または彼女を互いに他者にするものの方にあるのかを説明する。「世界のざわめき」が示そうとしているのは、言語とはたんに、私たちの経験を同等で交換可能なものとして扱えるように平準化する、人間の約束によって制定された一つのコードではなく、むしろ、自然のざわめき――動物の、最終的には、存在し反響するすべての物のざわめき――から生じるものと考えられるべきだ、ということである。言語というコードを鳴り響かせるとき、私たちは、人間の解読者とだけではなく、自然界が奏でる歌、不平、雑音とも意思を疎通させるのだ。「対面する根源的なもの」では、語られる内容よりも、私がその場に存在して語ることの方が本質的となるような状況を検討する。「腐肉の身体・腐肉の発話」は、ある特殊な言語状況で生まれる拷問を扱っている。その犠牲者は、彼または彼女が語り、信じたことのすべてが嘘であり、自分は真実を語ることができないと無理矢理に自白させられてしまう。最後に、「死の共同体」は、人が死にゆく人と形づくる共同体を考察している。
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装 幀
戸田ツトム(ジャケット、オビ、表紙)、写真はリンギスによる。
書 評
- 「東京新聞」2006年2月26日朝刊 平井玄氏による書評
- 「西日本新聞」2006年3月12日朝刊 平井玄氏による同書評
- 「週刊 読書人」2006年3月24日号 長原豊氏による書評
- 「図書新聞」2006年4月8日号 加藤恵介氏による書評
- 「書 標」2006年3月号 書評掲載
- 「読売新聞」2006年4月30日朝刊 林道郎氏による書評
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